様々な指針を担当しています

当院の研究が評価され、『今日の治療指針(医学書院)』・『今日の診断指針(医学書院)』をはじめ、海外の成書を担当しています。
この中から過活動膀胱に関する情報を提供いたします。

過活動膀胱診療

(1)過活動膀胱とフレイルについて
フレイルとは、加齢によって体の機能が衰え、外的なストレスに弱くなる状態です。例えば、軽い感染症や事故、手術などに対して、フレイルの高齢者は合併症のリスクが高くなります。また、加齢に伴い、認知機能も低下することがあります。日本では65歳以上の認知機能低下の人が約600万人いて、将来的には700万人に増える予測です。フレイルと認知機能低下の理解は、高齢者の健康にとって重要です。例えば、「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれる状態では、普段の生活には支障はありませんが、記憶力などが低下しています。MCIの人の約半数は5年以内に認知症に進行することもあります。高齢者の健康を考える際には、フレイルと認知機能の状態を把握することが重要です。過活動膀胱を持つ高齢者でも同じで、これらの健康状態を考慮して適切なケアを行うことが大切です。
高齢者の過活動膀胱治療には、フレイルや認知機能低下が考慮されます。治療効果を理解できる患者や家族が重要です。高度な認知症患者では治療が難しいこともあります。患者や家族への適切な情報提供が必要です。

(2)過活動膀胱とは
過活動膀胱は、尿意切迫感や夜間頻尿・頻尿を特徴とします。他の疾患を除外する必要があります。尿意切迫感の病態生理や原因についてはまだよく分かっていません。
蓄尿時症状(Storage symptoms)は、膀胱に尿がたまるときに現れる症状を指します。従来は刺激症状(irritative symptoms)と呼ばれていましたが、誤解を避けるためにこの用語は使われないようにされています。排尿時症状(Voiding symptoms)は、排尿する際にみられる症状を指します。広義の排尿症状は、蓄尿相や尿排出相の症状を含みますが、正確な表現としては下部尿路症状(lower urinary tract symptoms)を用いるべきです。排尿症状(voiding symptoms)は、狭義では排尿相(尿排出相)に限定されるべきです。また、排尿後症状(Post-voiding symptoms)は、排尿直後にみられる症状を指します。

(3)過活動膀胱の症状

過活動膀胱に関連する症状は、次のようなものがあります。
尿意切迫感:急に起こる、我慢できないような強い尿意を感じる症状で、過活動膀胱の主な症状です。
膀胱充満感亢進:膀胱が充満する感覚が以前よりも早く、強く、または持続的に感じることで、尿意切迫感とは異なります。
頻尿:通常よりも頻繁に排尿をするという症状で、昼間頻尿と夜間頻尿に分かれます。
尿失禁:蓄尿相中に不随意に尿が漏れる症状で、切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁、混合性尿失禁の3つがあります。
過活動膀胱の診療では、尿意切迫感と膀胱充満感亢進を区別し、高齢者やフレイル患者の場合は機能障害性尿失禁も考慮することが重要です。また、溢流性尿失禁を過活動膀胱と見誤ることがあるため、過活動膀胱症状のある患者には残尿測定を行うことが必要です。

機能障害性尿失禁(機能性尿失禁):身体的(例えば整形外科的、神経学的)および/または精神的障害により、通常の時間内にトイレに到達できない機能的障害による尿失禁の症状です。さらに、運動機能障害性尿失禁と認知機能障害性尿失禁に細分類されます。
溢流性尿失禁:膀胱が過剰に充満するために尿失禁が生じる症状で、原因は特定されていません。
排尿後尿意切迫感:排尿後も持続する尿意切迫感があるという症状で、排尿後症状の一つです。
閉経関連尿路生殖器症候群(Genitourinary syndrome of menopause: GSM):閉経期に女性が経験する尿路および生殖器に関連する症状の総称です。

(4)過活動膀胱と間違えやすい疾患
過活動膀胱と間違えやすい疾患には、悪性腫瘍(膀胱癌、前立腺癌、その他の骨盤内腫瘍)、尿路結石(膀胱結石、尿道結石、下部尿管結石)、下部尿路の炎症性疾患(細菌性膀胱炎、前立腺炎、尿道炎、間質性膀胱炎)、子宮内膜症などの膀胱周囲の異常、多尿、心因性頻尿、薬剤の副作用が含まれます。また、糖尿病に対するSGLT2阻害薬の使用による多尿や感染症にも注意が必要です。

(5)過活動膀胱と正確に診断するには?
過活動膀胱と診断するためには,尿意切迫感が必須である*。過活動膀胱症状スコア(OABSS)の質問3(尿意切迫感)で2点以上が必須とされています。

質 問 症      状 頻   度
朝起きた時から寝るまでに、何回くらい尿をしましたか 0 7回以下
1 8~14回
2 15回以上
夜寝てから朝起きるまでに、何回くらい尿をするために起きましたか 0 0回
1 1回
2 2回
3 3回以上
急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか 0 なし
1 週に1回より少ない
2 週に1回以上
3 1日1回くらい
4 1日2~4回
5 1日5回以上
急に尿がしたくなり、我慢できずに尿をもらすことがありましたか 0 なし
1 週に1回より少ない
2 週に1回以上
3 1日1回くらい
4 1日2~4回
5 1日5回以上

過活動膀胱の診断基準
尿意切迫感スコア(質問3)が2点以上かつOABSS合計スコアが3点以上過活動膀胱の重症度判定
OABSS合計スコア
軽症  :5点以下
中等症 :6~11点
重症  :12点以上

(6)治療法
行動療法は一次治療法で、生活指導や膀胱訓練、骨盤底筋訓練、行動療法統合プログラムなどが含まれます。特に体重減少や膀胱訓練、骨盤底筋訓練、行動療法統合プログラムはおすすめです。行動療法はリスクが少ないので、すべての患者に一次治療として実施すべき治療法です。ただし、治療効果を得るには時間と患者の努力が必要であり、定期的な専門医による指導が重要です。行動療法と薬物療法を併用することで、より効果的な治療が期待できる可能性もあります。
薬物療法:二次治療法である。(1)女性(骨盤臓器脱を確認が必要)① 抗コリン薬の種類を変更 ② 抗コリン薬からβ3受容体作動薬へ変更 ③ β3受容体作動薬から抗コリン薬へ変更 ④ 抗コリン薬とβ3受容体作動薬の併用
ボツリヌス毒素治療は、膀胱筋層に直接注入する方法で、神経因性排尿筋過活動や特発性排尿筋過活動に対する抗コリン薬やβ3受容体作動薬が効かない切迫性尿失禁に有効です。日本では、過活動膀胱や神経因性膀胱に対して保険が適用される治療法として認められています。通常は外来治療が可能ですが、高位脊髄疾患の神経因性過活動膀胱患者では、リスクが高いため入院治療が推奨されます。
神経変調療法は三次治療法です。非侵襲的な電気刺激療法は推奨されており、干渉低周波療法が保険適用となっています。磁気刺激療法も同様に非侵襲的です。仙骨神経刺激療法は体内電気刺激装置を仙骨孔に埋め込んで難治性切迫性尿失禁に対して効果があります。経皮的脛骨神経刺激療法も低侵襲で有効性が報告されていますが、本邦では未承認です。選択的膀胱除神経術は研究段階で、有効性が報告されていますが、本邦では未承認です。
骨盤臓器脱(POP)による膀胱出口部閉塞で排尿筋収縮力が良好な場合は、ペッサリーや外科的治療などの骨盤臓器脱の治療で過活動膀胱症状の改善が期待できます。治療が適していない場合は、難治性過活動膀胱の治療を行います。骨盤臓器脱の治療をしても過活動膀胱症状が残る場合は、難治性過活動膀胱の治療を検討します。
外科的治療法は、難治性神経因性過活動膀胱に対してボツリヌス毒素治療や仙骨神経刺激療法が効果がない場合に適応となります。自家膀胱拡大術や腸管利用膀胱拡大術などがありますが、非常に侵襲的な治療であり、適応の選択には注意が必要です。

(7)排尿筋低活動(低活動膀胱)
排尿筋低活動の評価と治療について、専門医向けのアルゴリズムでは、骨盤臓器脱に対する外科治療が効果不良な場合には、難治性過活動膀胱の治療に進むことが示されています。さらに、過活動膀胱の治療が効果不良な場合には、同様に難治性過活動膀胱の治療に進むことが示されています。しかし、効果不良な患者の中には排尿筋低活動を有する者も含まれている可能性があります。現時点では、排尿筋低活動の正確な診断には内圧尿流検査が必要ですが、内圧尿流測定を行わない臨床的診断基準が提案されています。ただし、この臨床的診断基準はまだ検証されていないため、現時点では内圧尿流検査を実施せずに臨床的診断基準で排尿筋低活動の判定を行い、難治性過活動膀胱の治療に進んでよいとされています。ただし、患者や介護者に対して十分な説明を行うことが必要です。

(8)高齢者
初期診療の後で専門医へ紹介されたフレイル高齢者や認知症高齢者には、再度の基本評価と専門的評価が行われ、優先すべき治療対象を選別します。過活動膀胱では、患者の半数以上が75歳以上であるため、フレイル高齢者や認知機能低下高齢者も含まれます。ただし、泌尿器科専門医にとって、フレイルや認知症の正確な診断や治療方針を求めることは困難です。

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