過活動膀胱に対してオナボツリヌス毒素Aの膀胱内注射を受けている女性患者における出血リスク

デンマークの後ろ向きコホート研究です。

 

過活動膀胱

英語の略称はOABと言います。この研究は、OABを持つ女性患者に対して行われる治療法の一つであるボツリヌストキシンA(BTX-A)の膀胱内注射について、その治療に伴う出血リスクを明らかにすることを目的としています。また、抗血栓療法を受けている患者に対する治療前後の管理方法について、具体的な臨床的推奨を提供することを目指しています。

OABは、頻繁に強い尿意を感じる状態で、多くの人々が生活の質を著しく低下させています。BTX-Aの膀胱内注射は、この症状を緩和するための有効な治療法の一つですが、治療中や治療後に出血が起こる可能性があるため、そのリスクを明確にすることは重要です。

特に、抗血栓療法を受けている患者の場合、出血リスクが高まることが懸念されます。抗血栓療法とは、血液が固まりにくくする薬を使用する治療法で、心臓病や脳卒中の予防に広く用いられています。このような治療を受けている患者がBTX-Aの膀胱内注射を受ける際に、薬の中止が必要かどうか、またはどのように管理すべきかを明らかにすることは、医療現場での重要な課題です。

この研究では、デンマークのヘアレフ・ゲントフテ大学病院において2015年から2020年の間に初めてBTX-A治療を受けた女性患者のデータを解析しました。患者の電子医療記録システムから抽出された情報を基に、BTX-Aが膀胱の排尿筋に10〜20か所に注射された際の出血リスクを評価しました。出血の有無は、持続的な肉眼的血尿の発生として定義されました。

このようにして得られたデータを基に、抗血栓療法を受けている患者がBTX-A治療を安全に受けるための具体的な管理方法を提案することを目指しています。治療中および治療後における抗血栓療法の中止が必要かどうか、またはINR(国際標準比)レベルでのモニタリングが必要かどうかについての指針を提供することが、この研究のもう一つの重要な目的です。

最終的には、OAB患者に対するBTX-Aの膀胱内注射が安全に行われるためのエビデンスを提供し、抗血栓療法を受けている患者に対する適切な管理方法を明らかにすることで、医療現場における治療の質を向上させることを目指しています。

方法

この研究は、デンマークのヘアレフ・ゲントフテ大学病院の婦人科・産科で行われた後ろ向きコホート研究です。2015年1月から2020年12月までの期間に、初めてBTX-A治療を受けた女性患者を対象としています。データは電子医療記録システムから抽出され、患者の年齢、治療回数、治療前後の抗血栓療法の有無などの情報を収集しました。

具体的な手順として、まずBTX-A(ボツリヌストキシンA)は、膀胱の排尿筋に10〜20か所に分けて注射されました。この治療は過活動膀胱の症状を軽減するために行われるもので、尿意切迫感や頻尿の症状を和らげる効果があります。治療中および治療後における出血のリスクを評価するために、すべての患者の治療記録を詳細に調査しました。

出血リスクの評価では、治療中または治療後の顕著な出血を「持続的な肉眼的血尿」と定義しました。これは、尿が目に見える形で赤くなる状態を指し、通常は膀胱や尿道からの出血によるものです。この定義に基づき、すべての治療記録をレビューし、血尿の発生有無を確認しました。

さらに、対象患者の中で抗血栓療法を受けている患者の割合を特定し、その治療内容についても調査しました。抗血栓療法は、抗凝固療法と抗血小板療法の2種類があり、それぞれの治療を受けている患者の割合を算出しました。また、治療中に抗血栓療法を中止した患者やINR(国際標準比)レベルでモニタリングされた患者の有無についても確認しました。

結果

この研究には、400人の女性患者が参加し、合計で1,059回のBTX-A治療が行われました。初回治療時の患者の年齢中央値は70歳で、年齢の四分位範囲(IQR)は21歳でした。これは、患者の年齢が50歳から91歳の範囲であることを示しています。また、BTX-A治療の回数の中央値は2回で、治療回数の範囲は1回から11回でした。

参加患者のうち、27.8%(111人)が抗血栓療法を受けていました。抗血栓療法を受けている患者のうち、30.6%が抗凝固療法を受けており、69.4%が抗血小板療法を受けていました。これらの患者についても、治療中および治療後の出血リスクを評価しましたが、持続的な肉眼的血尿の症例は報告されませんでした。

さらに、抗血栓療法を受けている患者の中で、治療前後に抗血栓療法を中止したり、INRレベルでモニタリングされた患者はいませんでした。これは、抗血栓療法を受けている患者でも、BTX-A治療が安全に行われたことを示しています。

この結果から、BTX-A治療は、OABを持つ患者に対する低リスクの治療法と見なすことができ、特に抗血栓療法を受けている患者に対しても安全であることが確認されました。

この研究がもたらす恩恵

この研究は、膀胱の過活動症状に悩む多くの女性患者に対して非常に重要な知見を提供しています。まず、ボツリヌストキシンA(BTX-A)治療が低リスクであることが確認されたことにより、治療を受ける際の安心感が大きく向上します。特に、出血リスクが低いことが明らかになったことで、医師と患者は治療に対する不安を軽減できます。

この研究がもたらす最大の恩恵の一つは、抗血栓療法を受けている患者にも安心してBTX-A治療を受けられるという点です。抗血栓療法は、心臓病や脳卒中などの予防に不可欠な治療ですが、通常、出血リスクを伴うため、他の治療法との併用には慎重さが求められます。この研究では、抗血栓療法を受けている患者に対してもBTX-A治療が安全であることが示され、治療前後に抗血栓療法を中止する必要がないことが確認されました。これにより、患者は心臓病や脳卒中のリスクを増加させることなく、膀胱の過活動症状に対する効果的な治療を受けることができます。

さらに、この研究は臨床現場での治療ガイドラインの改善にも貢献します。医師は、抗血栓療法を受けている患者に対してもBTX-A治療を安全に実施できるというエビデンスに基づいて、より確信を持って治療を行うことができます。これにより、治療の選択肢が広がり、より多くの患者が適切な治療を受けられるようになります。

また、この研究は、患者の生活の質向上にも直接的に寄与します。膀胱の過活動症状は、頻尿や強い尿意などを引き起こし、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。BTX-A治療が安全かつ効果的であることが確認されたことで、患者はこれらの症状を軽減し、より自由に活動できるようになります。特に高齢者や慢性的な疾患を抱える患者にとって、日常生活の質が向上することは非常に重要です。

さらに、出血リスクが低いことが確認されたことにより、医療費の削減にもつながります。出血などの合併症が発生すると、追加の医療処置や入院が必要になることがありますが、これを避けることで医療費の負担を軽減できます。また、抗血栓療法を中止せずに治療を行えることで、患者の病状管理がより安定し、長期的な医療費の抑制にも寄与します。

このように、この研究は膀胱の過活動症状に悩む女性患者、特に抗血栓療法を受けている患者に対して、安心して効果的な治療を受けるための重要なエビデンスを提供しています。医師はこれに基づいて治療を行うことで、より多くの患者の生活の質を向上させることができ、医療システム全体の効率化にも寄与します。したがって、この研究の成果は、臨床現場における治療の質と患者の生活の質の向上に大きく貢献すると言えるでしょう。

結論

この研究の結果から、BTX-A治療は低リスクの処置と見なすことができると提案されています。治療前後に抗血栓療法を中止する必要はないと結論づけられました。

キーワード

  • 抗凝固薬
  • 抗血小板薬
  • 抗血栓療法
  • 出血
  • 血尿
  • ボツリヌストキシンA注射
  • 緊急性尿失禁

この研究は、抗血栓療法を受けている患者に対しても、BTX-A治療が安全であることを示しており、治療前後の薬の中止を必要としないとする臨床的なガイドラインを提供しています。

 

過活動膀胱

 

 

Int Urogynecol J
. 2023 Jun 17. doi: 10.1007/s00192-023-05579-1. Online ahead of print.
Bleeding risk in female patients undergoing intravesical injection of onabotulinumtoxinA for overactive bladder: a Danish retrospective cohort study
Meryam El Issaoui 1 2, Sophia Elissaoui 3, Marlene Elmelund 3, Niels Klarskov 3 4

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