膣弛緩症 Vaginal Relaxation Syndrome(VRS)
疾患の特徴 公式に認められた病名ではありません。しかし、需要が多いために、多くの医療施設が各自に定義を作り治療を行っています。その治療施設は全世界に及びます。多くの施設をまとめると、VRSの特徴は、以下のようになります。
- かゆみと灼熱感を伴う膣刺激
- 乾燥
- 性交中の痛み(性交疼痛症)
- 膣のpHが低く、環境が感染しやすい
- 膣粘膜の衰弱による尿失禁の程度
これらの特徴は、標準的な性器の疾患では、骨盤臓器脱1度にあたる場合と考えられます。骨盤臓器脱1度は、半分以上の方で症状の訴えがなく、治療対象にはなりません。通常の骨盤臓器脱は、2度ないしは3度から治療対象となるからです。しかし、たしかに骨盤臓器脱1度、とくに、膀胱瘤1度の場合は、性交疼痛症が認められ、さらに、その症状を患者本人が隠しているということは、女性泌尿器科の専門をしていると経験的にわかるものです。したがいまして、VRSの不快感に関しては取り組む意義があります。
原因 出産により骨盤底筋肉に損傷がおこると生じます。出産が大変長時間であったり、胎児が巨大な場合は、その頻度が高いです。骨盤底への損傷が大きいと出産直後から、軽いと更年期から膀胱が下垂してきます。38歳以上の高齢出産では罹患しやすいです。さらに、出産後に肥満がある場合は膀胱瘤に進展するケースも考えることができます。また、エイジングにより、コラーゲン組織を持続して生成できなくなることも重要な問題です。出産において、骨盤底筋群の中で損傷を受けやすいのは、恥骨と膀胱をつなぐ筋膜組織で、とくに骨盤骨との結合織が外れるとパラバジャイナルデフェクトといいます。膀胱瘤まで進展した場合では必ず存在します。出産経験のない女性でも長年の骨盤底への負担がかかると膀胱瘤になりますが軽度のことが多いです。膀胱と子宮が隣接した臓器であることから、子宮を支える仙骨子宮靭帯の状態が重要で、この靭帯が出産で弛緩してしまった場合は一時的に膀胱瘤と子宮脱が同時にでますが、やがて改善します。しかし、この靭帯が断裂した場合は子宮脱の方が膀胱瘤よりも顕著に出現して、改善することは少ないです。
診断 病気の定義ができていない段階で、確定的な診断方法はありません。本人に不快感がある場合が、VRSと考えるべきと思われます。鑑別疾患は、膣の先天的奇形になります。膀胱瘤の診断方法が役立つ場合があります。それは、初診時に膣から医師が指を入れて必要な部分に押し当てます。その時に、患者本人が咳払いなどの腹圧をかけて膀胱瘤の程度を診る内診が必須です。パラバジャイナルデフェクトが左右均等に存在することはまれです。また。仙骨子宮靭帯の断裂状態が左右均等に存在することもまれです。
診断基準がないかわりに、代用になるものとして、膣健康指数という方法があります。当院の論文に膣健指数に関するものがあります。
治療 軽度の状態であれば、生活に支障がありません。外科手術は好ましくありません。
世界的に流通しているのは、膣レーザー治療です。これには、CO2レーザー、エルビウムレーザーなどがあります。しかし、重要なのは、この膣レーザーに対して、米国政府FDA(米国食品安全機構)が、1社をのぞいて警告を出していることです。次にアメリカの警告を翻訳してのせます
FDAは、膣の「若返り」または膣美容治療のためのエネルギーベースのデバイスの使用に対して警告をする:FDA安全通信 2018年7月30日
エネルギーベースのデバイスを使用して、膣の「若返り」、美容整形手術、またはGSM(閉経関連性器泌尿器症候群)に関連する症状を治療することは、有害事象がおこりえます。そのため警告します。これらの状態の治療のためのエネルギーベースのデバイスの安全性と有効性は確立されていません。
特定のデバイスメーカーが、膣の「若返り」や膣の美容処置のために、エネルギーベースの医療機器を販売している場合があることを認識しています。これらの治療を実行するためのエネルギーベースの医療機器の安全性と有効性は確立されていません。
膣の「若返り」は明確に定義されていない用語です。ただし、膣の症状や症状を治療することを目的とした非外科的処置を説明するために使用されることもありますが、これには次のものが含まれます。さらにこれに限定しない場合もあります。
膣の弛緩
膣の萎縮、乾燥、かゆみ
性交中の痛み
排尿中の痛み
性的感覚の低下
エネルギーベースの治療法を膣に適用することによるこれらの症状または状態の治療は、膣のやけど、瘢痕、性交中の痛み、繰り返し/慢性的な痛みなどの深刻な有害事象を引き起こす可能性があります。
米国警告対象にならなかったメーカー: Fotona社のみ
警告は7社におよび改善要求をされました。この中で警告のなかったのはFotona社だけですが、この会社は自主的に自社での確認・教育システムをたちあげています。
もし骨盤臓器脱の場合は? 膣口にまで膀胱瘤がおちてくると、すなわち患者自身で触れるという認識がある場合は、その後膀胱瘤として、病気は進行していきます。このため手術による修復手術が必要です。従来の方法は、膣の真ん中に切り込みを入れて左右に剥離を行い、パラバジャイナルデフェクトを修復し、さらに周囲の組織を正中に寄せるものです。近年、膣の切り込みからポリプロピレンメッシュを挿入して補強する方法があり、いくつかの技術がありますが、発売から10年以上の経過を経て副作用が顕著なため、現在米国では膣メッシュ用のポリプロピレンメッシュは販売されていません。腹腔鏡からメッシュを用いる方法は腹腔鏡メッシュと呼ばれています。この技術は決して副作用が少ないとされているわけではなく、経過観察中といえます。ポリプロピレンメッシュの場合は、副作用が出現したあとでメッシュを摘出することが必要ですが、その手術は困難があり周囲の組織を切除することになります。
手術する上での注意点 大変膣が弛緩しやすいのは、膣の前壁です。このうえには膀胱があり、頻尿になりやすい臓器です。このため、安易な手術はさけるべきです。その点で、レーザー治療は、可能性のある選択と考えます。もし、観血的手術が必要なら、メッシュなしの膣式の手術では膣壁の剥離の際に血管や神経を傷つけないように慎重に行うべきです。腹腔鏡でのメッシュ手術では膀胱の角度が付きすぎると尿失禁や頻尿になります。腹腔鏡ですと骨盤の深いところにまで侵入むずかしいからです。角度をつけすぎないようにすることが重要です。
レーザー治療以外のオプション レーザー治療以外のオプションは、やはり生活改善と体操です。体操は、骨盤底体操やスクワットをされる女性が多く、彼女たちは一応に効果をいわれます。論文では、骨盤底筋体操について、尿失禁の改善をみとめる報告が多数ありますが、膣弛緩に関してはありません。米国では膣に塗るクリームが通信販売されていますが、感染などの二次被害が米国に報告されています。
よこすか女性泌尿器科のホームページから情報を得よう!
効果的なリハビリテーションは?
データこそありませんが、膣弛緩が骨盤底筋の会陰膜が弛緩したためととらえると骨盤底筋体操が効果的です
youtubeから
膣弛緩は、膀胱瘤Ⅰ度であることが大変多いです。レーザーによる治療の効果が報告されています