間質性膀胱炎の治療での心理学の重要性【当院の海外論文】

間質性膀胱炎

膀胱痛症候群と合わせてBPS/ICと言います。これは、骨盤痛と尿症状を特徴とする慢性的な状態であり、患者の生活の質に深刻な影響を与えます。この症状は非常に多様で、個々の患者によって症状の現れ方が異なるため、診断や治療が難しい場合が多いです。BPS/ICは、頻尿や急な尿意、排尿時の痛み、尿の回数が増えるなどの症状が一般的です。これに加えて、尿を排出する際の痛みや不快感も頻繁に見られます。これらの症状は患者の日常生活に大きな制約をもたらし、外出や仕事に支障をきたすことが多いです。また、尿意や痛みが突然襲ってくるため、精神的なストレスも大きくなり、うつ病や不安障害を併発することも少なくありません。

BPS/ICの原因はまだ完全には解明されておらず、炎症や神経系の異常、免疫反応の異常などが関与していると考えられています。これらの原因が複合的に作用することで、膀胱や尿道の組織に慢性的なダメージを与え、痛みや不快感を引き起こします。また、慢性的な痛みは睡眠の質を低下させ、全身の健康状態に悪影響を及ぼすこともあります。

診断と治療の難しさ

BPS/ICの診断は、多くの場合、他の尿路感染症や婦人科疾患との鑑別が必要です。診断には、詳細な病歴の聴取、身体検査、尿検査、膀胱鏡検査などが含まれます。しかし、明確な診断基準が存在しないため、診断が遅れることが多いです。早期診断が難しいため、患者は長期間にわたって症状に苦しむことになります。

治療法としては、薬物療法、行動療法、理学療法、手術などが挙げられますが、これらの治療法はすべての患者に効果があるわけではありません。薬物療法には、抗炎症薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬などが使用されますが、副作用があるため長期的な使用が難しい場合があります。行動療法や理学療法では、骨盤底筋のトレーニングや膀胱訓練などが行われますが、効果が出るまでに時間がかかることがあります。手術は最終手段とされ、膀胱拡張術や神経刺激療法などが行われますが、リスクが伴います。

フォトナレーザー療法の可能性

最近の研究では、フォトナレーザー療法が外陰痛症やBPS/ICの治療に有望な選択肢であることが示されています。フォトナレーザー療法は、エルビウムレーザー(Er)とネオジムレーザー(Nd)の組み合わせを用いた治療法であり、組織の再生を促進する効果があります。具体的には、レーザー光が組織に吸収されることで熱エネルギーが発生し、これが組織の再生を促進するというメカニズムです。これにより、膀胱や尿道の組織が修復され、症状の改善が期待できます。

フォトナレーザー療法の利点は、非侵襲的であり、副作用が少ない点です。従来の治療法では、手術や長期間の薬物療法が必要となる場合が多く、これらは患者にとって大きな負担となります。一方、フォトナレーザー療法は短時間で行えるため、患者の生活への影響も最小限に抑えられます。また、複数回の治療を行うことで、持続的な効果が期待できる点も大きな魅力です。

治療効果の評価

治療効果の評価には、患者の症状スコアや生活の質に関するアンケートが使用されます。これらのデータを基に、治療の効果を客観的に評価し、今後の治療方針を決定することが重要です。例えば、Numeric Rating Scale(NRS)やVulvodynia Swab Test(VST)などのツールが使用されます。これにより、患者の痛みや不快感の程度を数値化し、治療の進捗をモニターすることが可能です。

NRSは、患者が経験する痛みの強さを0から10までの数値で評価するもので、治療前後の痛みの変化を定量的に捉えることができます。VSTは、外陰部の特定の部位に対して圧痛を測定するテストであり、痛みの局在や強度を評価します。これらの評価ツールを用いることで、フォトナレーザー療法が患者の症状に与える影響を詳細に把握することができます。

心理的サポートの重要性

BPS/ICの治療においては、身体的な治療だけでなく、心理的なサポートも重要です。慢性的な痛みや不快感は、患者の精神的な健康に大きな影響を与えるため、心理カウンセリングやサポートグループの利用が推奨されます。また、リラクゼーション法やストレス管理の技術を学ぶことで、症状の管理がより効果的になることが期待されます。

心理カウンセリングでは、患者が自身の症状や感情について話し合い、ストレスを軽減する方法を学びます。サポートグループでは、同じような症状に苦しむ他の患者と情報交換を行い、社会的な支援を受けることができます。これにより、孤独感や不安感が軽減され、治療に対する前向きな態度が育まれます。

リラクゼーション法には、深呼吸、瞑想、ヨガなどがあり、これらは緊張を緩和し、痛みの感覚を軽減する効果があります。ストレス管理の技術としては、タイムマネジメントや問題解決のスキルを向上させる方法があり、これにより日常生活のストレスを減らすことができます。

2. ケースプレゼンテーション

このケースレポートでは、48歳の女性患者について詳しく説明します。彼女は過去5年間にわたり、膀胱痛症候群(BPS/IC)と外陰痛症の症状に苦しんでいました。これにより、頻尿、骨盤痛、性交痛を常に感じていました。彼女の症状は日常生活に深刻な影響を及ぼし、頻繁にトイレに行く必要があるため、外出や仕事に支障をきたすことが多々ありました。また、排尿時の痛みや不快感が突然襲ってくるため、社会生活や人間関係にも大きなストレスを与えていました。

彼女はこれまでに多くの治療法を試みましたが、すべて効果がありませんでした。生活習慣の改善、鎮痛剤の使用、抗コリン薬の服用、膀胱内のハイドロディスティルエーション(膀胱内に液体を注入して膨らませる治療法)、膀胱内のジメチルスルホキシド注入(DMSO治療)、精神科的介入などが行われましたが、いずれも彼女の症状を軽減するには至りませんでした。彼女は絶望的な気持ちに陥り、生活の質は著しく低下していました。

患者の心理状態を詳しく評価するために、複数の標準化された質問票が使用されました。これにより、重度のうつ病、不安、アレキシサイミア(感情を認識し、表現する能力の欠如)が明らかになりました。具体的には、患者健康質問票-9(PHQ-9)、全般性不安障害-7(GAD-7)、トロントアレキシサイミアスケール-20(TAS-20)などが使用されました。これらの心理評価により、彼女が抱える深刻な心理的問題が、痛みや不快感をさらに増幅させていることが示唆されました。

さらに、彼女は性交痛により、性的関係を避けるようになり、最終的にはパートナーとの離婚に至りました。性的嫌悪感が強く、性生活に対する興味や欲求が著しく低下していました。このため、完全な女性性機能指数(FSFI)を実施することができませんでしたが、一部の項目を使用して、彼女の性的機能に関連する側面を評価しました。また、人工知能を用いた女性性の苦痛尺度改訂版(FSDS-R)の参考値を使用して、彼女の状態をさらに詳しく評価しました。

3. 心理評価

患者の心理状態を詳細に評価するために、複数の標準化された質問票が使用されました。これにより、彼女の精神的健康状態が詳しく把握されました。まず、患者健康質問票-9(PHQ-9)により、彼女のうつ病の程度が評価されました。結果、彼女は重度のうつ病に該当し、気分の落ち込みや興味の喪失、睡眠障害、疲労感、食欲不振、集中力の低下、自殺念慮などが認められました。

次に、全般性不安障害-7(GAD-7)により、彼女の不安の程度が評価されました。結果、彼女は重度の不安障害を抱えており、神経過敏や制御不能な心配、落ち着きのなさ、過度のいら立ちなどが確認されました。

最後に、トロントアレキシサイミアスケール-20(TAS-20)により、彼女のアレキシサイミアの程度が評価されました。結果、彼女は感情を認識し、表現する能力に著しい困難を抱えており、感情の識別や表現ができないことが判明しました。これにより、彼女の心理的苦痛がさらに増幅されていることが示されました。

これらの評価により、彼女の心理的問題が、痛みや不快感の増幅に寄与している可能性が強く示唆されました。したがって、彼女の治療には、身体的な治療だけでなく、心理的なサポートも不可欠であることが明らかになりました。

4. フォトナレーザー治療

フォトナレーザー治療は、患者の症状を改善するために行われました。この治療法は、エルビウムレーザー(Er)とネオジムレーザー(Nd)を組み合わせたもので、組織の再生を促進し、症状の軽減を図ります。治療は月に一度、3ヶ月間実施されました。その後、6ヶ月後および12ヶ月後にフォローアップが行われました。

治療の過程では、患者の膣内および外陰部に対してレーザー照射が行われました。エルビウムレーザーは、膣の前壁や全周にわたって照射され、組織の再生を促進します。ネオジムレーザーは、膣内の特定の部位に対して深部加熱を行い、組織の修復を助けます。これにより、膀胱や尿道の組織が修復され、症状の改善が期待されます。

治療の結果、患者の身体的および心理的症状は著しく改善しました。治療前には頻尿や骨盤痛、性交痛に苦しんでいた彼女は、治療後にはこれらの症状が大幅に軽減されました。具体的には、Numeric Rating Scale(NRS)やVulvodynia Swab Test(VST)などの評価ツールを用いて、彼女の痛みや不快感の程度が数値化されました。これにより、治療の効果が客観的に評価されました。

また、心理的な評価においても、治療前に比べて大幅な改善が見られました。PHQ-9、GAD-7、TAS-20のスコアはすべて改善し、彼女のうつ病、不安、アレキシサイミアの症状が軽減されました。治療後6ヶ月のフォローアップでは、これらの改善が持続していることが確認され、12ヶ月後には完全に寛解しました。

さらに、彼女の生活の質も大幅に向上しました。治療前には、頻繁にトイレに行く必要があり、外出や仕事に支障をきたしていた彼女は、治療後にはこれらの問題が軽減され、日常生活をより自由に過ごすことができるようになりました。また、睡眠の質も向上し、全体的な健康状態が改善されました。

フォトナレーザー治療の利点は、非侵襲的であり、副作用が少ない点です。従来の治療法では、手術や長期間の薬物療法が必要となる場合が多く、これらは患者にとって大きな負担となります。一方、フォトナレーザー治療は短時間で行えるため、患者の生活への影響も最小限に抑えられます。また、複数回の治療を行うことで、持続的な効果が期待できる点も大きな魅力です。

このケースレポートは、BPS/ICと外陰痛症の治療におけるフォトナレーザー療法の有効性を示しており、今後の治療法として期待されています。患者の生活の質を向上させるためには、身体的な治療と心理的なサポートの両面からアプローチすることが重要です。

間質性膀胱炎

 

原文を読みたい

Okui N, Okui M A (July 01, 2024) The Importance of Psychological Assessment in the Management of Bladder Pain Syndrome/Interstitial Cystitis and Vulvodynia: A Case Report. Cureus 16(7): e63617. doi:10.7759/cureus.63617

 

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