子宮摘出後の膣全脱
疾患の特徴 膀胱瘤が子宮摘出術後によく見られます。そのほかに、小腸が落ちてきている小腸瘤や直腸が落ちてきている直腸瘤であるケースもある。これらを総称して、post-hysterectomy vaginal vault prolapse (VVP)といいます。しかしながら英語論文として報告されている数が膀胱瘤に比較して少ないためコンセンサスを得られた手術方法はありません。VVPを伴う少なくとも30人のデータ(少なくとも6か月のフォローアップが必要)という条件で、過去すべての英語論文をあたると846人の女性(95人から168人の女性グループの研究)を見ることができます。
原因 子宮の周囲には仙骨子靭帯、基靭帯などの組織が支えていますが、これらを手術で切断しなければならないことが原因になります。子宮を摘出したときにその部分が開きますので、膀胱にテンションがかかるように組織が固まると膀胱瘤が出現しやすく、そうでない場合は小腸瘤が出現しやすいことは経験的には知られています。Royal College of Obstetricians and Gynecologists Colpopexy and Urinary Reduction Efforts(CARE)試験では、子宮を摘出することにより、術前3.7%であった腹圧性尿失禁が19%に上昇しています。子宮脱を治療するために子宮摘出術が行われる場合、他の婦人科の理由で子宮摘出術と比較すると、脱出症の再発のリスクが高くなることがわかっています(American Journal of Obstetrics&Gynecology 197(6):664.e1–664.e7)。子宮摘出術と骨盤臓器脱の修復を組み合わせた女性は、骨盤臓器脱を繰り返すリスクが高くなります。
◆ 子宮摘出術の種類と発生 子宮摘出術の種類によっては、骨盤臓器脱の発生が増える場合があります。腹式子宮全摘出術の後、膣円蓋脱(膣の上部が膣に落ちる)と小腸瘤(小腸脱)が一般的です。
◆ 子宮摘出術からの経過時間 子宮摘出術からの経過時間が長くなると、骨盤臓器脱のリスクが高くなります。ある研究では、子宮摘出術後20年の時点で骨盤臓器脱の修復が必要な女性の割合は3.3%であり、子宮摘出後30年でこの数値は5.1%に増加しました。
★ 子宮頸部の除去 子宮頸部を切除する場合には、サポート靭帯を傷つけないようにするべきと考えます。
診断 初診時に膣から医師が指を入れて必要な部分に押し当てます。その時に、患者本人が咳払いなどの腹圧をかけて子宮脱の程度を診る内診が必須です。仙骨子宮靭帯の断裂状態が左右均等に存在するはずなので、再手術に有効なものがあるかどうか見るべきです。MRI検査により骨盤内の観察が必要です。MRI検査では、尿道の長さ・厚みの測定、恥骨尿道靭帯、恥骨尿道直腸靭帯の損傷の有無を見ます。また、恥骨子宮頸部の距離、恥骨肛門括約筋の距離などの距離を比較することにより膀胱瘤の周囲の筋膜組織が軽度な損傷なのか重大な損傷なのか理解することが可能になります。
治療
子宮摘出後の膣断端脱(膣断端脱出、膣穹窿脱)は、軽度であっても不快感が続き、日常生活に大きな影響を与えることがあります。特徴的なのは、毎日膣に脱出する臓器が異なる場合があることです。例えば、膀胱が脱出する日は小腸が脱出するスペースがなくなり、頻尿や排尿障害が顕著になります。別の日には小腸が膀胱と尿道を圧迫し、尿が出にくくなることがあります。
奥井医師のクリニックでは、メッシュを使用しない手術方法が特徴です。膣式手術では、膣からのアプローチを行い、膣断端を補強します。膣穹窿固定術(Sacrospinous Ligament Fixation, SSLF)は、膣を骨盤内の靭帯(仙骨棘靭帯)に固定する手術で、縫合糸を使用して膣断端を靭帯に固定し、膣が再び脱出しないようにします。
vNOTES(膣式腹腔鏡手術)は、膣から腹腔鏡を挿入して行う手術です。膣から腹腔鏡を挿入し、膣断端を修復・固定します。手術中の出血が少なく、精密な操作が可能です。手術は通常、硬膜外麻酔または腰椎麻酔で行われ、麻酔が効いていることを確認後に開始されます。手術は1時間から2時間程度で完了し、術後数時間の観察期間を経て、同日中に帰宅できます。術後の痛みは、麻酔の持続効果により軽減されます。
手術後数週間以内に再度クリニックを訪れ、回復状況を確認します。必要に応じて追加の治療が行われることもあります。手術後数日以内に通常の活動に戻ることができ、多くの患者が手術後すぐに日常生活を再開しています。奥井医師のクリニックでは、膣断端脱の手術が多く行われており、メッシュを使用しない安全で効果的な方法が採用されています。手術後の合併症も少なく、患者の満足度も高いです。
奥井医師のクリニックでは、最新の海外医学論文を参考にしながら、毎年手術方法を進化させています。2020年から2023年までの手術方法の進化について説明します。2020年からは、手術において患者の自家組織(真皮)を用いた補強方法が採用されています。これにより、合成メッシュの使用を避け、異物反応や感染リスクを低減します。脂肪組織を利用して、膣断端を補強する方法も取り入れられており、脂肪組織は再生能力が高く、手術後の組織修復を促進します。
2023年には、残存膣組織を血管を維持したまま固定する「ペクトペクシー」技術が採用されました。この方法は、組織の血流を保ちつつ補強するため、組織の健康を維持しやすく、合併症のリスクを低減します。SSLFは引き続き熟達した技術として用いられており、膣断端を仙骨棘靭帯に固定することで、膣の脱出を防ぎます。奥井医師のクリニックでは、この手技が非常に熟達しており、多くの成功例があります。
vNOTES手術の詳細
vNOTES(膣式腹腔鏡手術)は、膣断端脱の治療において有効な手術方法であり、奥井医師のクリニックでも多く採用されています。手術は、硬膜外麻酔または腰椎麻酔で行われ、手術中の痛みが効果的に管理されます。膣から腹腔鏡を挿入し、膣断端を修復・固定します。手術中の出血が少なく、精密な操作が可能です。
術後ケアとして、約50%の患者は手術後に1日だけ尿道カテーテルを使用し、翌日にはカテーテルを抜去し、自然排尿が可能か確認されます。もともと膀胱に神経障害が存在する患者には、術後のリハビリが準備されています。リハビリは、膀胱の機能回復を促進し、術後の排尿管理をサポートします。リハビリの内容として、膀胱の機能を回復させるための訓練が行われ、排尿のタイミングや量を管理することで、膀胱の正常な働きを取り戻すことを目指します。また、骨盤底筋を強化するエクササイズも推奨され、膀胱の支持が強化され、尿失禁の予防に役立ちます。術後の回復状況を定期的に確認するためのフォローアップが行われ、診察や必要に応じた追加の治療が含まれます。
vNOTES手術は、体への負担が少なく、回復が早いことが特徴です。手術後の合併症も少なく、多くの患者が手術に満足していることが報告されています。最新の手術技術と徹底した術後ケアにより、安全で確実な治療が提供されています。
手術における注意点 性生活を希望する患者に対しては、その機能を温存する手術が必要になりますが、多くの場合は難しいです。メッシュ手術の場合に、性機能が維持できるとはかぎりません。
エビデンス
◆ 腹式仙棘靭帯固定手術(ASC)対 膣式仙棘固定(SSF) 女性は、ASCとSSFの両方が効果的な治療法であると報告されています。ASCとSSFは、再発性の膣全脱・性交疼痛症に効果が高く、術後の腹圧性尿失禁にも差がありません。SSFは、ASCと比較して早期の回復になります。SSFは膣の長さが短い女性には適さない可能性があり、慎重に検討する必要があります。過去の比較データの中において、ASCにはメッシュが含まれます。
◆ 腹式メッシュ利用仙棘靭帯固定手術(ASC)対 膣式仙棘固定(SSF) ASCに関しては、3年間の長期成功率は78〜100%であるとされる報告があります。メッシュびらんは2〜11%で観察されました。しかし、さらに長期になると、メッシュ露出の推定確率は10.5%で、再手術率は16.7%でした。この点で、メッシュを挿入してもしなくても利点がないといえます。
◆ 膣式メッシュ(VM)と腹腔鏡下メッシュ仙棘固定(LSC)とロボット式メッシュ(RSC)の比較 満足度は、LSCの方が高くなります。合併症の最も高い割合は、LSC(2-19%)、VM(6-29%)、およびRSC(54%)です。メッシュの露出はVMの後で最も頻繁に見られました(8–21%)。RSCの結果は小さすぎて結論を出すことができませんが、LSCはASCよりも好ましいようです。
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【女性泌尿器科レベル上級】 子宮摘出後の新しいメッシュ術式であるペクトペクシー手術を、はやくもフランスが、メッシュ・レス・ペクトペクシー手術にアレンジしてきました。フランスの外科医たちは、メッシュレス時代にむけて、新しい技術を急ピッチでメッシュなしにアレンジすることを提案しています。
【女性泌尿器科レベル上級】 子宮摘出後の新しいメッシュ手術のペクトペクシーは、期待されてはいますが、実際のデモビデオからは骨盤の大きさに対して人工メッシュの量が多いとおもわれます。このため、現時点では、長期成績を見ない限り、推奨はできません。