子宮脱
疾患の特徴 初期の場合は立位になったときに下垂感がでてきますが、やがて常に膣から子宮が脱出して異物感を感じます。子宮の頸部が出てきた時は、卵のサイズで比較的弾性のあるものです。膀胱の場合はやわらかいものです。子宮が落ち始めた初期は排尿障害や排便障害がでることはありませんが、進行すると膣におちた尿道を圧迫するので排尿困難になります。進行すると尿閉になります。残尿が常に大量に存在し、尿管や腎臓も水圧がかかるようになります。さらに進行すると腎不全になります。とくに糖尿病を有していると腎不全への進行がはやまります。子宮は約50%以上の脱出をともなうと、常に下着との間に摩擦をおこして炎症を伴います。このため痛みや出血を認めます。
原因 出産により骨盤底筋肉に損傷がおこると生じます。出産が大変長時間であったり、胎児が巨大な場合は、その頻度が高いです。骨盤底への損傷が大きいと出産直後から、軽いと更年期から膀胱が下垂してきます。38歳以上の高齢出産では罹患しやすいです。また、出産後に肥満がある場合は子宮脱の出現時期が早まります。この病気の人の骨盤底筋群の中で損傷を受けやすいのは、子宮を支える仙骨子宮靭帯です。この靭帯が出産で弛緩してしまった場合は子宮脱がでますが、やがて改善します。しかし、この靭帯が断裂した場合は子宮脱の方が膀胱瘤よりも顕著に出現して、改善することは少ないです。恥骨と膀胱をつなぐ筋膜組織で、とくに骨盤骨との結合織が外れると子宮脱とともに、膀胱瘤が出現します。この状態を膀胱子宮脱といいます。出産経験のない女性でも長年の骨盤底への負担がかかると子宮脱になりますが軽度のことが多いです。
診断 初診時に膣から医師が指を入れて必要な部分に押し当てます。その時に、患者本人が咳払いなどの腹圧をかけて子宮脱の程度を診る内診が必須です。仙骨子宮靭帯の断裂状態が左右均等に存在することもまれです。MRI検査により骨盤内の観察が必要です。MRI検査では、尿道の長さ・厚みの測定、恥骨尿道靭帯、恥骨尿道直腸靭帯の損傷の有無を見ます。また、恥骨子宮頸部の距離、恥骨肛門括約筋の距離などの距離を比較することにより膀胱瘤の周囲の筋膜組織が軽度な損傷なのか重大な損傷なのか理解することが可能になります。膀胱子宮脱では膀胱三角部という神経が最も多い場所が膣へ脱出します。このため頻尿になるケースが多いのですが、多くは血流動態が停滞するからです。
治療 軽度でも不快感が継続します。しかし、軽度の状態であれば、仕事をする上では支障がありません。膣口にまで子宮脱がおちてくると、すなわち患者自身で触れるという認識がある場合は、その後病気は進行していきます。このため手術による修復手術が必要です。従来の方法は、膣の真ん中に切り込みを入れて左右に剥離を行い、仙骨子宮靭帯を補強したり、さらに子宮の下垂が著しい場合は、仙棘靭帯に固定をします。子宮脱が高度な場合は子宮摘出になります。しかし、子宮には様々な靭帯が付いており、子宮を摘出することはこれらを損傷させるので、技術的に可能であれば子宮頸部を幅広く切断し、子宮の大きさを小さくして持ち上げるマンチェスター法が理想的です。海外の論文では、子宮摘出までなら日帰り手術は理論的に可能です。これに対して、膣の切り込みからポリプロピレンメッシュを挿入して補強する方法があり、いくつかの技術がありますが、仙棘靭帯周辺部に固定するものが多いです。これらは膣メッシュと呼ばれるもので、発売から10年以上の経過を経て副作用が顕著なため、現在米国では膣メッシュ用のポリプロピレンメッシュは販売されていません。腹腔鏡からメッシュを用いる方法は腹腔鏡メッシュと呼ばれています。この技術は決して副作用が少ないとされているわけではなく、経過観察中といえます。ポリプロピレンメッシュの場合は、副作用が出現したあとでメッシュを摘出することが必要ですが、その手術は困難があり周囲の組織を切除することになります。
手術における注意点 性生活を希望する患者に対しては、その機能を温存する手術が必要になります。子宮摘出の場合は、子宮のなくなった膣を縮小させるように縫合すると性生活に支障があります。子宮のない膣に以前とおなじ大きさを保持すると、最初は性生活が可能ですが、やがて膣から小腸が落ちてくる小腸瘤になりやすく、結果として長期間の性生活を得ることができません。マンチェスター法はこの点理想的です。マンチェスター法の場合は、当初出血しやすくなることが問題点です。メッシュ手術の場合に、子宮そのものにメッシュを癒着させることは不可能です。このため、メッシュ手術をうけたのにかかわらず、子宮脱もしくは膀胱瘤が出現する場合があります。
子宮がんについての注意点 手術前に細胞診で陰性と出ても、摘出した子宮に異形細胞がある場合があります。かならず病理学へ検体を提出する必要があります。子宮脱を改善させるために子宮頸部を切除(アンプテーション)を行う場合は切除範囲が大きいため、事前の子宮頸がん検診陰性およびMRI検査陰性であれば、手術にて完全に切除できており、断端(切除した端)は陰性のケースが圧倒的多数です。
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子宮脱の子宮は温存か摘出かを分析してお知らせしています
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