ボツリヌス毒素膀胱注入療法【当院の海外論文】

ボツリヌス毒素膀胱注入療法

「ボツリヌス膀胱注入」という新しい治療法が、難治性過活動膀胱に対して当院で開始されました。この治療法では、A型ボツリヌス毒素を膀胱内壁に注射することで筋弛緩作用を引き起こし、過活動膀胱に関連するさまざまな症状を改善することができます。

2020年より健康保険適用開始

当院で過活動膀胱治療をうけるメリット

メリットについて3つあげました

よこすか女性泌尿器科で過活動膀胱の治療を受けることには、以下のような多くのメリットがあります。まず第一に、当院は日本国内で数少ない、海外査読論文としてエビデンスを持つ医療機関の一つです。当院では、私たちの医療がどれほど有効であるかを確認するために、定期的に治療データをまとめ、厳しい査読審査を受ける海外の医学誌に投稿しています。これにより、治療の信頼性と有効性を高めるだけでなく、患者さんに対してしっかりとした説明を行うことが可能です。特に過活動膀胱の治療では、膀胱へ直接過活動膀胱治療薬を注射する方法や、尿道や膣にレーザーを照射する方法など、多岐にわたる治療法に取り組んでいます。

第二に、当院は日本のみならず、世界的にも過活動膀胱手術件数が多い医療機関です。過活動膀胱の場合、内服薬では効果が不十分であったり、副作用に悩まされる患者さんが多くいらっしゃいます。そうした患者さんには、膀胱粘膜へ直接ボツリヌス製剤を注射する治療が一般的です。よこすか女性泌尿器科では、毎月15人から30人、年間では300人以上の患者さんにボツリヌス治療を行っており、この治療件数の多さが当院の特徴の一つです。手術件数が多いということは、手術室が十分に確保されていることや、副作用などの緊急事態に迅速に対応できる体制が整っていることを意味し、患者さんに高品質な医療を提供できることに繋がります。

第三に、当院では人工知能(AI)を活用した診断および治療法の開発に取り組んでいます。独自に開発したAIは、治療の適応や副作用の出現率を予測することができ、その成果はすでに学術論文として評価されています。例えば、膀胱へ直接薬剤を投与する治療においては、AIを用いることで副作用のリスクを事前に計算し、患者さんに最適な治療法を選択することが可能です。

よこすか女性泌尿器科では、これらの取り組みに加え、骨盤臓器脱や尿失禁などの他の泌尿器科的な問題にも力を入れています。AIまちこ先生を活用した尿もれ相談や、手術のマンガによる分かりやすい説明資料など、患者さんが安心して治療を受けられるよう、多様なアプローチを実施しています。また、間質性膀胱炎/膀胱痛症候群に関する研究でも、AIを用いて重要な発見を行っており、3つの異なるグループが存在することを明らかにしました。これにより、より個別化された治療法の提供が可能となっています。

当院の実施件数

ボツリヌス膀胱注入は、だいたい年間300件です

よこすか女性泌尿器科では、多岐にわたる泌尿器科の手術を年間を通じて実施しており、その実績は国内外から高く評価されています。2024年には、過活動膀胱治療、膀胱脱・子宮脱手術、尿失禁・便失禁手術、腹腔鏡を用いた骨盤臓器脱日帰り手術、レーザーを用いた尿失禁治療および便失禁治療、そしてGSM(閉経後性器尿路症候群)治療など、多くの手術を行ってきました。

まず、過活動膀胱治療においては、膀胱粘膜へ直接ボツリヌス製剤を注射する治療が主流です。2024年1月から5月までの間に、月平均30名近くの患者さんがこの治療を受けています。特にボツリヌス治療は効果が高く、頻尿や尿失禁に悩む患者さんに大きな改善をもたらしています。

膀胱脱・子宮脱手術に関しては、当院では毎月安定した数の手術を実施しています。例えば、2024年1月には20件、2月には20件、3月には24件の手術を行っており、この分野でも確固たる実績を持っています。これに加え、骨盤臓器脱手術後の合併症手術や直腸瘤・便失禁手術も定期的に行われており、患者さんの多様なニーズに応えています。

さらに、レーザーを用いた尿失禁治療および便失禁治療も積極的に行っています。2024年1月には12件(便失禁治療4件を含む)、2月には13件(便失禁治療1件を含む)、3月には12件(便失禁治療1件を含む)の治療が実施されました。レーザー治療は非侵襲的で回復が早いため、患者さんにとって非常に魅力的な選択肢となっています。

また、当院では人工知能(AI)を用いた先進的な診断および治療方法を取り入れています。独自に開発したAIシステムは、MRIによる測定データを正確に分析し、最適な治療方針を提案します。このAI技術は、国際的な研究論文としても発表されており、信頼性の高い治療を提供するための重要なツールとなっています。例えば、過活動膀胱の治療において、AIを活用することで副作用のリスクを事前に予測し、患者さんにとって最適な治療法を選択することが可能です。

コロナ禍の影響で手術件数が一時的に減少しましたが、当院ではこの状況に対応するために、毎週月曜日の午後にも手術を行う体制を整え、できるだけ初診から4か月以内に手術を完了できるよう工夫しています。このような取り組みのおかげで、2023年には年間を通じて膀胱脱・子宮脱手術が528件、直腸瘤・便失禁手術が76件、メッシュ摘出手術が112件、レーザー尿失禁・便失禁治療が216件、GSM治療が144件、ボツリヌス膀胱注射治療が222件という実績を残しました。

当院では、患者さん一人ひとりに合わせた個別化医療を提供することを目指しています。人工知能技術や最新の治療法を駆使し、常に最良の治療を提供できるよう努力を続けています。また、国際的な医学雑誌に多くの論文を発表することで、治療の信頼性とエビデンスを確立しています。これにより、患者さんは安心して治療を受けることができ、より快適な生活を取り戻すことが可能です。

当院から世界へ。査読付き研究報告の内容

わかりやすく当院の研究を知ることができます

Efficacy and Safety of Combination Therapy With Vaginal and Urethral Erbium-Doped Yttrium-Aluminum-Garnet (Er:YAG) Laser for Overactive Bladder With Urinary Incontinence.

Okui N, Okui MA.Cureus. 2024 Jun 14;16(6):e62363. doi: 10.7759/cureus.62363. eCollection 2024 Jun.

Predictive Factors for High Post-void Residual Volume in Older Females After OnabotulinumA Treatment for Severe Overactive Bladder Using a Machine Learning Model.

Okui N, Ikegami T, Hashimoto T, Kouno Y, Nakano K, Okui MA.Cureus. 2023 Jul 29;15(7):e42668. doi: 10.7759/cureus.42668. eCollection 2023 Jul.

当院の過活動膀胱への挑戦

当院での過活動膀胱治療がわかります

さらに、当院の研究論文があります。これは年間300件のペースでおこなっているからこそ、しっかりした

 

「過活動膀胱とは」

「過活動膀胱」とは、膀胱が自分の意思とは関係なく勝手に収縮し、膀胱に尿が十分に溜まっていないにもかかわらず、急に尿意を感じて我慢ができず何度もトイレに行く(尿意切迫感)、夜中に何度もトイレに起きる、我慢できずに尿が漏れてしまう(切迫性尿失禁)などの症状が現れる病気です。

国内の調査では、日本人の40歳以上の人口の12.4%が過活動膀胱を抱えているとされています。この調査結果から、国内の過活動膀胱の患者数は1,000万人を超えると推定され、多くの人々がこの病気に苦しんでいると言われています。

2020年からはじまったあたらしい治療。

過活動膀胱による頻尿や尿失禁の治療として、抗コリン薬(ベシケア®、トビエース®、ウリトス®など)やβ3アドレナリン受容体作動薬(ベタニス®、ベオーバ®)などの薬物療法が一般的に行われています。しかし、薬物療法では効果が不十分だったり、口渇、便秘、尿が出づらくなるなどの副作用のため、薬の服用を継続することが難しい場合があります。

そのような薬物療法が効果がないか、または使用できない過活動膀胱の患者さんに対しては、次の二つの治療法が有効とされており、欧米を中心に広く行われています。「仙骨神経刺激療法(SNM)」および「ボツリヌス膀胱注入療法」です。日本国内でも2017年に「仙骨神経刺激療法(SNM)」が過活動膀胱に対して保険適応となり、2020年には「ボツリヌス膀胱注入療法」が保険適応となり、使用が可能になりました。当院では2020年3月から「ボツリヌス膀胱注入療法」を導入しています。

ボツリヌス膀胱注入療法は、過活動膀胱を含むさまざまな疾患の治療薬として、世界中で広く利用されています。現在、90ヵ国以上で承認されており、その効果と安全性について多くの臨床試験が行われ、良好な結果が報告されています。日本でも、この治療法はまぶたや顔面のけいれん、首や手足の姿勢異常、腋窩多汗症、斜視などの治療に広く利用されています。特に、ボツリヌス毒素の筋弛緩作用により、これらの症状が緩和され、多くの患者が日常生活をより快適に過ごすことができるようになっています。

また、ボツリヌス膀胱注入療法はその非侵襲的な性質から、手術に比べてリスクが低く、回復期間も短いとされています。これにより、高齢者や手術リスクの高い患者にも適用が可能であり、多くの医療機関で採用されています。さらに、この治療法は持続的な効果を持ち、多くの患者が数ヶ月から数年にわたり症状の改善を実感しています。

ボツリヌス膀胱注入療法は、今後もさらなる研究と技術の進歩により、より多くの患者に恩恵をもたらすことが期待されています。現在も新しい適応症や投与方法の研究が進められており、将来的にはより広範な疾患に対する治療法としての可能性が広がるでしょう。このように、ボツリヌス膀胱注入療法は、過活動膀胱を含むさまざまな症状に苦しむ患者にとって、有望な治療オプションの一つとなっています。

「ボツリヌス膀胱注入療法」は、膀胱鏡を使用して膀胱の壁内(筋肉)にボツリヌス毒素を注射する治療法です。この治療は、膀胱局所麻酔(麻酔薬を膀胱内に注入する)で行われます。膀胱の筋肉に細い針を使用して、ボツリヌス毒素を100~200単位、20~30箇所にわたって注入します。手術時間は通常10~20分程度で、一般的には外来での治療が可能です。治療後、通常は同日にトラブルなく自宅に帰ることができます。

ボツリヌス毒素膀胱注入療法

効果は通常、治療後2~3日で現れ、4~8ヶ月にわたって持続します(効果の程度や持続期間には個人差があります)。効果が不十分であるか、薬の効果が弱まり症状が再発した場合は、前回の投与から4ヶ月経過していれば再投与を検討することがあります。再投与の時期は、術後の超音波のデータに基づいて決定されます。

副作用については以下の通りです(頻度は国内での臨床試験結果に基づいています)。

  1. 肉眼的血尿(約2%程度): 薬物を膀胱内に注射することで一時的に血尿が現れることがあります。通常は数日で収まりますが、血尿が深刻な場合には内視鏡で止血する必要があることがあります(非常にまれなケースです)。当院では、しばやく止血できように内視鏡手術が用意されています。
  2. 尿路感染症(約5%程度): 尿道から細菌が膀胱内に侵入することにより膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症が発生する可能性があります。尿が濁ったり、頻尿、排尿時の痛み、発熱、悪寒、血尿などの症状が現れることがあります。
  3. 排尿困難、残尿の増加(約5-9%): 尿を完全に排出できず、膀胱内に尿がたまってしまう副作用があります。治療後は定期的に残尿量を測定します。残尿量が増えた場合は、自己導尿(自分で尿道にカテーテルを挿入し尿を排出する手法)を行う可能性があります。統計的には4%程度で、事前の調査で予測可能です。その場合は主治医から事前に説明があります。
  4. 薬によるアレルギー反応(1%未満): 稀にアレルギー反応が現れることがあります。吐き気、じんましん、発疹、不快感などの副作用が生じる場合があります。重篤な場合には喘息発作やアナフィラキシーショック(血圧低下)が発生する可能性があります。

「ボツリヌス膀胱注入療法」は安全な治療法であることが確認されていますが、まれに上記のような副作用が現れることがあります。

 

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