【当院の海外論文】人参養栄湯はフレイルと過活動膀胱に効果

Cite this article as: Okui N, Okui M (June 21, 2023) Ninjin’yoeito Improves Genitourinary Symptoms in Patients With Frailty. Cureus 15(6): e40767. doi:10.7759/cureus.40767

フレイルと過活動膀胱当院での研究成果です

漢方の人参養栄湯は、フレイルに効果があります。この効果は、筋トレをするとするほど効果を示します。そこで、骨盤底筋体操をしっかりおこなうという条件で、人参養栄湯を内服すると、骨盤底筋がつよくなり、過活動膀胱が改善します。

 

フレイルという状態(高齢で筋力が低下しているひと)ですが、骨盤底筋体操だけをしていてもなかなか改善しません。そこで、人参養栄湯を内服しながら体操を継続していきます。

もともとフレイルの薬ですから、効果があるのですが、過活動膀胱がすこしなおります。そうですよね、漢方で血流をよくして、骨盤底筋をきたえるのですから、骨盤底筋がそだつという次第です。

これは、骨盤底筋体操をあなどり、そのことを伝えずに、過活動膀胱の処方を受けている人が世の中には随分いまして、そのような方では過活動膀胱の処方が必要なくなります。結果として、ポリファーマシー問題の解決の手がかりになります。

非常に効果的「人参養栄湯」、そもそもどんな薬なんでしょうか?

人参養栄湯は補剤の一種

漢方において、補剤と呼ばれる薬の代表は、補中益気湯、十全大補湯、および人参養栄湯です。補剤という言葉の意味は、「気」を補うことで元気を出させる薬という意味であり、様々な疾患に伴う疲労や食欲不振に使用されます。夏バテに効果のある清暑益気湯もこの中に含まれます。補中益気湯は、気を補う薬ですが、人参養栄湯と十全大補湯は、気だけでなく血も補う、気血双補剤とされています。

中国の宋の時代には、医療を担当する国家機関である太医局が設置され、その下には薬剤師専門の部局である太平恵民局が設けられました。そこで使用された処方が『太平恵民和剤局方』(1151年)として記録されました。太平恵民局の処方を意味するため、「局方」という名前が付けられ、これが日本薬局方の「局方」の語源となりました。人参養栄湯と十全大補湯は、この『太平恵民和剤局方』に初めて同時に収載された処方です。補中益気湯は『内外傷弁惑論』(1247年)で初めて現れ、人参養栄湯と十全大補湯よりも先に開発された処方となります。

構成生薬から見えてくる人参養栄湯の特徴
補剤は、参耆剤(じんぎざい)とも呼ばれ、人参と黄耆(オウギ)を含有していることが特徴です。人参養栄湯は、十全大補湯から川芎(センキュウ)を除き、陳皮(チンピ)、遠志(オンジ)、五味子(ゴミシ)を加えたものということになります(表2)。遠志、五味子は、3種類の補剤の中で人参養栄湯だけに配合されています。『中医臨床のための方剤学』(神戸中医学研究会著、東洋学術出版社、2012年)には、「遠志は、寧心安神・交通心腎・化痰止咳に、五味子は斂肺止咳・平喘・養心安神に、陳皮は、理気化痰に、それぞれ働くので、十全大補湯による気血双補の効能に寧心安神・平喘止咳・化痰の効果が加わる。」と書かれています。この文章から、人参養栄湯の、疲労回復に加わる咳嗽や、健忘・不眠・動悸・不安などの効果は、これらの生薬に起因するものと考えられていることがお分かりになると思います。

人参養栄湯の研究

(1)人参養栄湯はオキサリプラチンによる神経障害の発生率を低下させる
元雄らは、ステージ3の結腸直腸がん患者において、人参養栄湯群(20名)が人参養栄湯非投与群(20名)と比較してオキサリプラチンによる神経障害の発生率を低下させたことを報告しています(Motoo Y, Tomita Y, Fujita H. Prophylactic efficacy of ninjin’yoeito for oxaliplatin-induced cumulative peripheral neuropathy in patients with colorectal cancer receiving postoperative adjuvant chemotherapy: a randomized, open-label, phase 2 trial (HOPE-2). International Journal of Clinical Oncology 2020; 25(6): 1123-9. )。人参養栄湯をがんの化学療法に併用するRCTはすでにいくつか報告されていましたが、それらは疲労倦怠感で評価するものでした。抗がん剤による神経障害を改善するというデータは新しい知見です。

(2)人参養栄湯はCOPDのフレイル患者の食欲、QOL、不安感を改善する
同じく2020年に、平井らはCOPD(慢性閉塞性肺疾患)のフレイルまたはプレフレイル患者に対するRCTの結果を報告しました(Hirai K, Homma T, Matsunaga T, et al. Usefulness of Ninjin’yoeito for Chronic Obstructive Pulmonary Disease Patients with Frailty. Journal of Alternative and Complementary Medicine 2020; 26(8): 750-7.)。この報告では、人参養栄湯群(31名)は、非投与群(31名)と比較して、主要評価項目としたフレイルの基本チェックリストスコア(フレイルの変化を反映)には影響を与えませんでしたが、副次評価項目のSNAQ(Simplified Nutritional Appetite Questionnaire;食欲変化)、CAT(COPD Assessment Test;COPD患者のQOL)、HADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)の不安、うつ病スコアを有意に改善させたとしています。COPD、フレイルに対し、人参養栄湯が効果を示すというのは新しい知見であり、近年の高齢者に対する人参養栄湯の使用増加の大きな理由になっているのではないかと考えられます。

(3)人参養栄湯は統合失調症患者の陽性・陰性症状を改善させる
2022年には、宮岡らが治療抵抗性の統合失調症患者におけるRCTを報告しました(Miyaoka T, Wake R, Araki T, et al. Efficacy and safety of Ninjin’yoeito (NYT) in treatment-resistant schizophrenia: Open-Label Study. Asian Journal of Psychiatry 2021; 60: 102662. doi: 10.1016/j.ajp.2021.102662. )。人参養栄湯投与群/非投与群で計42名が試験を完了し、人参養栄湯群は非投与群と比較して、PANSS(Positive and Negative Syndrome Scale;陽性・陰性症状評価尺度, Total PANSS, Positive, Negative, General)を、投与4週目から16週目まで有意に改善しました(4週目のGeneralを除く)。こちらも近年の人参養栄湯の新しい使い方を示したものと思われます。

(4)人参養栄湯は婦人科疾患で手術予定の患者の疲労感、不安感を改善させる
同じく2022年には、八木らが婦人科疾患で手術予定の患者での人参養栄湯の効果を報告しています(Yagi T, et al. Safety and efficacy of Ninjin’yoeito along with iron supplementation therapy for preoperative anemia, fatigue, and anxiety in patients with gynecological disease: an open-label, single-center, randomized phase-II trial. BMC Women’s Health 2022; 22(1): 229. )。鉄剤単独(15名)と、鉄剤・人参養栄湯併用(15名)の効果を比較したところ、CFS(Cancer Fatigue Scale;疲労感)、およびVAS-Aスコア(Visual Analogue Scale for Anxiety;不安感)は人参養栄湯併用群でのみ有意に減少したと報告しています。

 

人参養栄湯はさまざまな分野に期待されている

Q. 特定の医療関連Webサービスが、人参養栄湯を使用した調査結果がありますか?その調査によれば、医師847人の中で、人参養栄湯を処方した経験のある医師は34.7%(294人)であり、3人に1人以上の医師が処方した経験があることがわかりました。

質問「人参養栄湯を処方したことがありますか?」に対して「はい」と回答した医師294人の内訳は次の通りです。「サルコペニア・フレイル」が47.6%(140人)で最も多く、「認知症」が27.2%(80人)、次いで「がん」が18.7%(55人)、そして「うつ病」が18.0%(53人)でした。

研究データは存在しませんが、このWebサービスのアンケートによれば、この漢方薬はさまざまな分野で有用とされています。

例えば、以下のような応用が考えられます:

がん患者の体力回復や食欲不振の改善
婦人科系がん患者の免疫力増強
がん末期の悪液質状態やうつ症状の食欲低下
がん患者の冷え、貧血、術後の食欲不振
サルコペニア・フレイル患者や老衰患者の食欲不振・疲労倦怠
サルコペニアの食欲不振
フレイルの慢性疼痛患者
更年期症候群の貧血や気滞
更年期障害による食欲不振
妊娠中のつわり、貧血など
産後の倦怠感、高齢者の倦怠感
認知症の活動性低下やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者の体力低下、高齢者の倦怠感
脳梗塞後遺症の食欲低下
胃ろう患者の消化器機能低下
PPI、H2ブロッカーが効果のない消化器症状を訴える患者
慢性呼吸器疾患の食欲不振
てんかん患者の抑うつや食欲不振
眼精疲労患者の疲労倦怠感
明らかな疾患が見つからない高齢者の食欲不振

フレイルと過活動膀胱

高齢者において、身体機能の低下と頻尿は密接に関連しています。これらの問題は生活の質に重大な影響を与えるため、適切な理解と対策が必要です。本記事では、身体機能の低下と頻尿がどのように互いに影響し合うかを詳しく説明します。

身体機能の低下と頻尿の関連性
相互作用のメカニズム
高齢者の身体機能の低下は、しばしば筋力の減少やバランス感覚の喪失を伴います。これにより、日常生活の中での移動やトイレへのアクセスが困難になることがあります。さらに、筋肉の衰えは膀胱のコントロールにも影響を与え、頻繁な尿意や急な尿意を引き起こすことがあります。

生活の質への影響
身体機能の低下と頻尿の組み合わせは、生活の質に深刻な影響を及ぼします。頻繁な尿意により、外出や社会活動が制限され、精神的なストレスが増加します。また、夜間頻尿は睡眠の質を低下させ、さらに身体機能の低下を促進する悪循環を引き起こします。

身体機能の低下が頻尿に与える影響
筋力の低下と膀胱コントロール
高齢者における筋力の低下は、特に骨盤底筋の弱化を引き起こしやすく、これが膀胱コントロールの喪失につながります。骨盤底筋は尿道を支える役割を果たしており、その機能が低下すると、頻繁な尿意や切迫性尿失禁が発生します。身体機能の低下が膀胱コントロールに及ぼす影響は無視できません。

バランス感覚の喪失とトイレへのアクセス
バランス感覚の喪失は、トイレに急ぐ際の転倒リスクを増加させます。このため、急な尿意を感じてもすぐにトイレに行けない場合があり、結果として尿漏れが発生します。このような経験は、さらなる身体機能の低下や精神的な不安を引き起こします。

頻尿が身体機能の低下に与える影響
夜間頻尿と睡眠障害
頻尿は夜間の睡眠を妨げる大きな要因となります。頻繁にトイレに起きることで、深い睡眠が妨げられ、疲労感が蓄積します。睡眠不足は日中の活動に支障をきたし、筋力やバランス感覚の維持が困難になります。これにより、身体機能のさらなる低下が進行します。

社会的孤立と精神的ストレス
頻尿により、外出や社会活動が制限されることで、社会的孤立感が増します。孤立感や精神的ストレスは、身体機能の低下をさらに悪化させる要因となります。精神的ストレスは食欲の減退や運動意欲の低下を引き起こし、全体的な健康状態を悪化させます。

両者の管理と対策
適切な運動療法
高齢者の身体機能の低下を防ぐためには、適切な運動療法が重要です。筋力トレーニングやバランス訓練を取り入れることで、骨盤底筋や全身の筋力を強化し、尿意のコントロールを改善します。また、運動は精神的な健康にも寄与し、ストレスの軽減にもつながります。身体機能の低下を防ぎつつ、頻尿を改善することが可能です。

栄養管理と生活習慣の改善
栄養バランスの取れた食事は、身体機能の維持と頻尿の管理に不可欠です。特に、タンパク質やビタミン、ミネラルを十分に摂取することが推奨されます。さらに、カフェインやアルコールの摂取を控え、適度な水分補給を心がけることも重要です。これにより、身体機能の低下を抑え、頻尿を予防することができます。

医療機関での評価と治療
医療機関での定期的な評価は、身体機能の低下や頻尿の早期発見と管理に役立ちます。医師による診断を受け、必要に応じて薬物療法や行動療法を行うことが推奨されます。特に、尿意を抑える薬剤や骨盤底筋を強化するための訓練が有効です。身体機能の低下と頻尿の両方を適切に管理することで、生活の質を向上させることができます。

高齢者の生活の質向上に向けて
包括的なアプローチの重要性
高齢者の生活の質を向上させるためには、身体機能の低下と頻尿の両方を包括的に管理するアプローチが重要です。多職種連携によるケアが求められます。例えば、理学療法士、作業療法士、栄養士、社会福祉士などが連携して、高齢者の全体的な健康を支援します。これにより、身体機能の低下を防ぎつつ、頻尿を適切に管理することが可能です。

家族とコミュニティのサポート
家族やコミュニティからのサポートも重要な役割を果たします。家族は高齢者の生活習慣や運動習慣を支援し、コミュニティは社会的交流の機会を提供することで、高齢者の孤立感を軽減します。これにより、精神的な健康が改善され、全体的な生活の質が向上します。身体機能の低下を防ぎ、頻尿の管理を支援するために、家族とコミュニティの協力が不可欠です。

予防と教育の重要性
予防と教育は、高齢者の身体機能の低下と頻尿の管理において重要な役割を果たします。健康教育プログラムを通じて、適切な生活習慣や運動方法を学び、予防的な措置を講じることが必要です。また、家族や介護者にも教育を提供し、高齢者の健康管理を支援することが求められます。これにより、身体機能の低下を予防し、頻尿のリスクを減らすことができます。

身体機能の低下と頻尿の具体的な対策
運動とリハビリテーション
運動は、身体機能の低下を防ぎ、頻尿の管理に効果的です。具体的には、以下のような運動が推奨されます:

筋力トレーニング:特に下肢の筋力を強化することが重要です。スクワットやレッグプレスなどの運動が効果的です。
バランストレーニング:片足立ちやステップ運動を行うことで、バランス感覚を改善し、転倒リスクを減少させます。
有酸素運動:ウォーキングやサイクリングなどの有酸素運動は、全身の体力を向上させ、心肺機能を強化します。
栄養管理と生活習慣
適切な栄養摂取と生活習慣の見直しは、身体機能の低下を防ぎ、頻尿の症状を軽減するために重要です。以下のポイントに注意しましょう:

バランスの取れた食事:タンパク質、ビタミン、ミネラルを豊富に含む食事を心がけます。特に、筋肉の維持に必要なタンパク質を十分に摂取することが重要です。
カフェインやアルコールの制限:これらの刺激物は膀胱を刺激し、頻尿を悪化させる可能性があります。適度な摂取を心がけましょう。
水分管理:過剰な水分摂取は避け、適度な水分補給を行います。特に、夜間の水分摂取を控えることで、夜間頻尿を減少させることができます。
医療的介入と治療
医療機関での評価と治療は、身体機能の低下と頻尿の管理において重要です。以下の方法が有効です:

薬物療法:尿意を抑える薬剤や膀胱の収縮を調整する薬剤が処方されることがあります。
行動療法:膀胱訓練や骨盤底筋エクササイズを行い、膀胱コントロールを改善します。
定期的な健康チェック:医師による定期的な健康チェックを受け、早期に問題を発見し、適切な対策を講じることが重要です。
まとめ
高齢者における身体機能の低下と頻尿は、互いに関連し合い、生活の質に重大な影響を与えます。適切な運動療法、栄養管理、生活習慣の改善、医療機関での評価と治療、そして家族とコミュニティからのサポートが、これらの問題の効果的な管理に不可欠です。包括的なアプローチを通じて、高齢者が健やかに生活できる環境を整えることが重要です。

このように、身体機能の低下と頻尿に関する情報は、患者や医療従事者にとって非常に重要です。適切な対策を講じることで、生活の質を向上させ、健康な生活を維持することが可能です。

 

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