メッシュびらん
骨盤臓器脱や腹圧性尿失禁の治療には、ポリプロピレンメッシュをつかいます。しかし、これがメッシュ露出やびらんをおこすと対処方法がないです。フランスのガイドラインが出たばかりですが、治療法がみつからず、”切除するとよいかもしれない”とか、”患者と話し合うべき”という段階にとどまってます。
当院は、この病気にとりくんできたため、ようやく国際論文をだすところまできました。
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左が治療前の組織の像です。一般のひとでもわかるとおもいますが、組織がメッシュで破壊されて、いわばぼろぼろ。これではメッシュを部分的に摘出してもなおるわけありません。
右は、メッシュをある程度切除した後に、レーザー治療をしたもの。細胞がしっかり生えて、メッシュのまわりをとりかこみます。このことで、メッシュは封印されて出血がなくなります。
この治療法の重要なのは、コロンブスの卵みたいなもので、いままで、メッシュトラブルはメッシュを切るという発想しかなかったものを、メッシュのまわりに組織を強制的に増やして封印してしまうというものです。
これには、非蒸散姓エルビウムYAGレーザーが必要です。これは表面に傷をつけずに、中の組織だけに刺激をあたえて細胞をふやすことが可能です。
ポリプロピレンメッシュによる膣びらんに対する非切除エルビウムヤグ(YAG)レーザー治療の評価:症例シリーズ
背景
ポリプロピレンメッシュによる膣びらんは深刻な副作用であり、効果的な治療法の開発が求められています。本研究では、新しい治療法として非切除エルビウムヤグ(YAG)レーザー治療(VEL)の可能性を探りました。
方法
本研究では、ポリプロピレンメッシュによる膣びらんを経験した9人の女性を対象にVELを実施しました。これらの患者は2020年4月から12月の間に当院を訪れました。レーザーはRenovalase(SP Dynamis Fotona d.o.o.)を使用し、びらん部位に集中的に照射しました。治療前後の症状および組織病理学的変化を1年間にわたり詳細に分析しました。
結果
参加者の平均年齢は73.2歳(範囲:69-81歳)で、全員が膣びらんによる出血や痛みの改善を希望していました。治療後、膣びらんや関連する出血の管理において顕著な改善が見られ、細胞の再生および組織の修復が確認されました。これにより、患者の生活の質(QoL)も大幅に向上しました。
結論
VELはポリプロピレンメッシュによる膣びらんの効果的な治療法となる可能性があります。しかし、小規模な症例シリーズ研究であるため、さらなる研究が必要です。
一般向けの説明
この研究は、膣内に使用されるポリプロピレンメッシュが原因で起こる膣びらんに対する新しい治療法を探るものです。従来の治療法はメッシュの除去でしたが、これはリスクが高く、効果的な新しい治療法が必要とされていました。そこで、私たちはエルビウムヤグ(YAG)レーザー治療(VEL)を試みました。
この治療では、膣内のびらん部位に特別なレーザーを照射し、細胞の再生を促進します。これにより、出血や痛みが軽減され、患者の生活の質が向上しました。治療を受けた9人の女性全員が、びらんや関連する症状の大幅な改善を報告しました。
治療の過程では、まず局所麻酔を施した後、特別な器具を用いて膣内のびらん部位にレーザーを照射します。このプロセスを数回繰り返すことで、組織の再生を促進し、びらんを治癒させます。治療後の組織サンプルを調べたところ、細胞の再生と組織の修復が確認されました。
この治療法の大きな利点は、メッシュを除去せずに膣びらんを効果的に治療できることです。従来のメッシュ除去手術はリスクが高く、再発することも多いため、新しい治療法が求められていました。VEL治療は、出血や痛みを軽減し、生活の質を向上させることができるため、特に高齢者にとって有益です。
ただし、本研究は小規模な症例シリーズ研究であるため、さらなる大規模な研究が必要です。それでも、今回の研究結果は、ポリプロピレンメッシュによる膣びらんに対する新しい治療法として、VEL治療が有望であることを示しています。
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