尿失禁のテープを挿入したあとの切迫性尿失禁出現率

tot transobturator tape

 

切迫性尿失禁出現率

咳をするともれる、いわゆる腹圧性尿失禁は、多くの女性が経験する一般的な問題です。この状態は、運動や笑い、くしゃみなどの腹圧がかかったときに、尿が漏れてしまうことを特徴とします。この問題に対処するために、尿道を支えるためのテープを挿入する手術(MUS手術)が行われることがあります。代表的なMUS手術には、TOT手術(Transobturator Tape)などがあります。しかし、これらの手術を受けた一部の患者では、腹圧性尿失禁が改善される一方で、新たに切迫性尿失禁という症状が現れることがあります。切迫性尿失禁とは、急に強い尿意を感じ、トイレに間に合わずに尿が漏れてしまう状態を指します。

カリフォルニア大学の研究者たちは、この手術後に新たに切迫性尿失禁が発生する頻度について調査を行いました。彼らの研究によると、この頻度は6%であると報告されています。この結果は、過去の報告と一致しており、MUS手術を受ける患者にとって安心材料となる情報です。しかし、この6%の患者がどのような特徴を持っているのか、また、どのように治療すれば良いのかについては、詳細が明らかにされていません。

### 研究の詳細

この研究は、2008年1月1日から2016年9月30日までの期間にMUS手術を受けた患者を対象とした後ろ向きコホート研究です。研究者たちは、最新の手続き用語コードと国際疾病分類を用いて患者を特定し、詳細なデータを収集しました。研究期間中、合計13,893人の患者がMUS手術を受け、そのうち6,634人が研究の対象基準を満たしました。対象患者の平均年齢は56.9歳で、平均出産数は2.76、平均BMIは28.9でした。

切迫性尿失禁出現率

多変量回帰モデリングの結果、新たに発生する切迫性尿失禁(UUI)と同時に行われる手術との関連性は見られませんでした(P < 0.05)。一方、年齢の増加とBMIの上昇は、夜間頻尿のリスク増加と強く関連していることが示されました(P < 0.05)。これらの結果は、手術後の新たな症状の発生に関する予測因子として重要です。

研究者たちは、MUS手術後にde novo OAB(新たに発生する過活動膀胱)の発生率が6.1%であることを確認しました。この発生率は、既存の文献と一致しており、MUS手術前の患者へのカウンセリングにおいて重要な情報を提供します。具体的には、手術を検討する患者に対して、術後に新たな切迫性尿失禁が発生する可能性があることを説明し、そのリスクを理解してもらうことが求められます。

### 考察と今後の課題

この研究結果は、MUS手術のリスクとベネフィットをバランス良く伝えるための貴重な情報を提供しています。6.1%という発生率は低いものの、手術後に新たな症状が現れる患者に対する対策が必要です。患者が手術後に新たな切迫性尿失禁を経験する場合、その原因を特定し、適切な治療を行うことが重要です。治療法としては、行動療法や薬物療法、さらには再手術などが考えられます。

また、将来的には、どのような患者が新たな切迫性尿失禁を発症しやすいのかを予測するためのさらなる研究が必要です。特定のリスク因子や患者の特徴を明らかにすることで、手術前にリスクを評価し、個別に最適な治療計画を立てることが可能になるでしょう。

### 結論

今回の研究は、MUS手術後に新たに発生する過活動膀胱の発生率が6.1%であることを明らかにしました。この結果は、手術前のカウンセリングにおいて重要な情報を提供し、患者が手術のリスクとベネフィットを十分に理解するための基盤となります。さらに、患者ごとに異なるリスクを評価し、最適な治療計画を立てるためのさらなる研究が期待されます。

この研究の結果を基に、医療現場ではMUS手術のリスク管理と患者教育が一層強化されることが望まれます。手術を受ける患者が安心して治療を受けられるよう、医療従事者は最新のエビデンスに基づいた情報提供を行うことが求められます。

合わせて読みたい

以下に、指定された内容に関連する論文をいくつか紹介します。これらの論文は、MUS手術(特にTOT手術)後の切迫性尿失禁の発生率に関する研究です。

1. **Navigating Treatment Choices for Stress and Urgency Urinary Incontinence Using Graph Theory in Discrete Mathematics**
– 著者: Nobuo Okui
– DOI: [10.7759/cureus.61315](https://dx.doi.org/10.7759/cureus.61315)
– 公開日: 2024年5月1日
– 概要: 日本の研究で、TOT手術後の切迫性尿失禁の発生率を人工知能で計算した上で、患者自身が治療法を選びます

2. **Safety and efficacy of surgical transobturator tape in the treatment of stress urinary incontinence in women – three years of follow-up**
– 著者: M. Pantelić, M. Stojić, A. Ćurčić, M. Dukić, U. Kadic, M. Maletin
– DOI: [10.2298/sarh210625107p](https://dx.doi.org/10.2298/sarh210625107p)
– 概要: 3年間の追跡調査において、TOT手術後の切迫性尿失禁の発生率が6%であることが確認されました。

3. **Short and Long Term Follow up and Efficacy of Trans Obturator Tape for Management of Stress Urinary Incontinence**
– 著者: J. Sharma, Karishma Thariani, R. Kumari, T. Kaur, B. Uppal, K. Pandey, Venus Dalal
– DOI: [10.1007/s13224-020-01398-2](https://dx.doi.org/10.1007/s13224-020-01398-2)
– 公開日: 2021年1月22日
– 概要: TOT手術後の切迫性尿失禁の発生率が6%であることが示されています。

4. **Safety and Efficacy of Single Incision Sling Versus Midurethral Sling in the Treatment of Stress Urinary Incontinence: A Randomized Controlled Trial**
– 著者: M. Huser, R. Hudeček, I. Belkov, I. Horvath, J. Jarkovský, Samuel Tvarozek
– DOI: [10.1097/SPV.0000000000001284](https://dx.doi.org/10.1097/SPV.0000000000001284)
– 公開日: 2023年2月1日
– 概要: TOT手術後に切迫性尿失禁の発生率が6%と報告されています。

5. **Five-Year Efficacy of Transobturator Tape Treatment and Quality of Life in Women with Stress Urinary Incontinence**
– 著者: M. Şahin, Volkan Şen, Bora Irer, G. Yildiz
– DOI: [10.34172/aim.2020.110](https://dx.doi.org/10.34172/aim.2020.110)
– 公開日: 2020年12月1日
– 概要: TOT手術後の切迫性尿失禁の発生率が6%であることが確認されています。

これらの論文は、MUS手術後の切迫性尿失禁の発生率についての詳細なデータを提供しています。それぞれの論文のリンクからさらに詳細な情報を確認することができます。

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