【当院の海外論文】スポーツ選手の尿失禁治療

この研究のきっかけ

当院では、奥井医師がトライアスロンに取り組んで、身体障害があるにもかかわらず健常者のカテゴリーで何度もアイアンマンに入っています。もともとは、手術をずっとレベル高く続けたいという思いからスポーツをやめることなく頑張ろうときめたのですが、この関係で多くの選手のコーチや、医療スタッフをしてきました。

そうしているうちに、女性アスリートには腹圧性尿失禁が非常に多いことに気が付きました。2023年には、女性アスリートの尿失禁が、高校、大学時代からあり、出産後にアスリートとして復帰できないことの原因になっているのが、複数の国際論文で報告されています。

女性アスリートの尿失禁は勘違いされている

Stress Urinary Incontinence Among Young Nulliparous Female Athletes. Joseph C, Srivastava K, Ochuba O, Ruo SW, Alkayyali T, Sandhu JK, Waqar A, Jain A, Poudel S. Cureus. 2021 Sep 15;13(9):e17986. doi: 10.7759/cureus.17986. eCollection 2021 Sep.
この論文では、女性アスリートの尿失禁が、過小評価されていると解説しています。つまり、医療従事者は認識に誤解があります。

Urinary incontinence, pelvic floor dysfunction, exercise and sport.
Bø K. Sports Med. 2004;34(7):451-64. doi: 10.2165/00007256-200434070-00004.
この論文では、女性アスリートの尿失禁は、膣にタンポンをいれて対処している現状を説明し、かつ、尿失禁の基準をスポーツ中ではないクリックでの尿パッドテストにしているから、わからない としています。つまり、診察方法そのものに、切実な競技中の彼女たちの悩みによりそうものがありません。

骨盤底筋体操はゆいつで万能か?

尿失禁といえば、骨盤底筋体操です。ここで、これまでの見解では、アスリートも骨盤底筋体操をすればよい、そして、それが答えという風潮がありました。

Bauer SB, Vasquez E, Cendron M, Wakamatsu MM, Chow JS: Pelvic floor laxity: a not so rare but unrecognized form of daytime urinary incontinence in peripubertal and adolescent girls. J Pediatr Urol. 2018, 14:544.e1-7. 10.1016/j.jpurol.2018.04.030
こちらの論文では骨盤底筋体操をさせることが有効と書いてます。しかし、論文をよくよむと気がつくことがあります。25 人中 13 人 (52%)が骨盤底筋体操で尿失禁が改善した。しかし、ここに、スポーツ選手権に参加できたかどうかは書かれていません。それは、アスリートの目線ではないです。

こうしたことは、統計学の問題なのです。統計上、治療前より治療後に変化があると有意な差といい、それで論文としてなりたちます。しかし、52%というデータで、アスリートが試合に復帰できたかどうかは議論されなくても、研究としては成立します。

そこで、今回私達がアスリートばかりをあつめて、統計データをとりました。こちらの論文です。
【当院の研究】Okui N, Erel T, Okui M (August 30, 2023) Analysis of Predictive Factors for Return to Sports in Female Athletes With Stress Urinary Incontinence. Cureus 15(8): e44364. doi:10.7759/cureus.44364  
骨盤底筋体操の効果は、やはり50%前後。以前の研究と同じなのですが、重要なのはエリート選手としてもどれたのは26.8%です。つまり、統計上尿失禁が改善したというデータを出して論文にしたところで、アスリートの実情は説明になっていないのです。あるアスリートは言いました。「尿もれがひどくなってきたら、だんだんフォームが崩れてきた。そして、前のような安定した走りができなくなった」
そこで重要なのは、アスリートの競技会への復帰ができたかどうかというところです。

尿失禁アスリートが復帰する予測因子を計算するには人工知能

アスリートの復帰にかかわる様々な因子を算出すれば、その後、それぞれの因子を治療の目標にしていくことができます。そして、そのことで、アスリートの復帰率が高まれば、それは、あたらしい道がひらけます。いままでの研究のような、”単に治療前より治療後の尿失禁が統計的有意に改善した”という統計上のデータではなく、アスリートの希望をかなえるような治療マニュアルを作ることができます。

そのような複雑な計算をするとなると、いろいろな因子がからまってきます。そこで有効なのが人工知能をもちいることです。
人工知能による学習には様々な方法がありますが、今回はランダムフォレストという方法を用います。これは、複雑な因子を分解して、重要度の順番に並べることができます。

重要な予測因子は、4つである

この技術をもちいて人工知能で計算したところ、重要な4つの因子がわかりました。この4つを順におさえることで、アスリートの復帰率があがるはずです
(1)骨盤底筋体操(どれだけ長い時間するかではなく、どれだけ毎日継続するか)
(2)テストステロン(血液中のテストステロン値を高めることが回復につながります)
(3)3か月の時点の尿失禁テスト(アスリートには時間がありません。だらだら同じ治療をしていると、復帰の時期をのがします。骨盤底筋体操を3か月で判定して、効果がないときは、次の手段に以降すべきです)
(4)尿道レーザー治療(アスリートはドーピングの関係で薬がつかえません。尿道の成長をうながすレーザーをおこないます。わたしたちは、この治療はテストステロンの取り込み効率をあげると予測しています)

骨盤底筋体操については、スポーツとの組み合わせや、1日の訓練時間、1週間の訓練時間、実施する時間帯など、さまざまなパターンがあるのですが、この中で重要と人工知能が選んだのが”どれだけ毎日継続するか”という課題です。結局のところ、骨盤底筋体操は長時間行う人はいないので、筋肉疲労というレベルにはなりません。ですから、通常の人は、1回15分とか、30分とかするわけで、そのあとはしていませんので、筋肉を休憩させることができます。したがって、毎日している人こそが効果を得られるわけです。この毎日の運動で筋肉が成長するために必要なのはテストステロンです。テストステロンは、性ホルモンの一つで男性に多いので男性ホルモンともいいますが、女性にも男性にもあります。筋肉や臓器の形態に役立つものです。ですので、テストステロンを高めるような生活をすることが重要なのです。

この場合の治療法で注目になるのはレーザー尿失禁治療

さて、それでも治らない人が、尿失禁を克服して競技会に出場することが全体の復帰率を高めることになります。すると、目安は、骨盤底筋体操を始めて3か月の時点での尿失禁テストです。どれほどの尿の漏れが改善されたかです。この3か月で区切れば、その時に成績不良である人を、他の治療に持っていけます。それはレーザー尿失禁治療です。レーザー尿失禁治療には、YAGレーザーというものを用います。このレーザーは、本当に微量なエネルギーを尿道に照射することで中に熱を発生させます。そして組織の再構築を図るのです。

 

 

 

 

 

 

 

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